アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
「ほら、那智。
 ヘラヘラしてないで早く食え。

 お前らがいちゃついてるから、支度が遅れて、遅刻気味だぞ」
と桜田がこちらを見て言った。

「俺は今日はまだ時間に余裕があるから、片付けといてやる」
と桜田が言ってくれたので、二人で食器だけ下げた。

 遥人が洗面所に居る間、那智がバックの中の物を整えていたら、那智、と桜田に腕をつかまれる。

「さっき、洋人とすれ違ったが」
と声を落として訊かれた。

「来たもの。此処を確認に。
 たぶん、お母さんに頼まれて。

 桜田さん、お母さんに言った? 専務のこと」
と言うと、渋い顔をする。

「……裏切り者っ」
と桜田の足を踏みつけた。

 いてっ、と一瞬、手を離したが、また那智の腕をつかんで、真面目な顔で言ってくる。

「心配してるんだ、那智。
 俺もあいつも」

 そう言われると、文句を言いづらいな……と思った。

 困った顔をして、桜田を見上げていると、ふっと桜田は表情を緩め、
「まだまだお前にキスしていいのは、俺だけだ」
と言い、那智の頬に口づけてきた。

「もうっ、やめてくださいよっ」
と言ったとき、遥人が出てきた。

 桜田がつかんでいる那智の腕を見ている。

 うう、間の悪い人だ、と思っていた。

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