アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
「生カピバラ……。
 生チョコみたいだな」

 すぐ側にある那智の顔に向かって言うと、那智は笑った。

 キスくらいならしてもいいだろうか。
 だが、この状況で、そこで止めておく自信はない。

「那智」
「はい」

「手とかつないでみてもいいか?」

「……いいですよ」
と那智はわざとちょっともったいぶって見せ、言う。

 そっと那智の手をつかんだ。
 細い手だ。

 その滑らかな手の甲を口許に持っていき、目を閉じた。

「そうしてると、王子様みたいなんですよね、専務」

「そうしてるとってなんだ?」

 他のときはまずい、みたいに聞こえ、睨んでしまう。

「だって、職場ではめちゃめちゃ凶悪ですよ。
 女子社員でも容赦なく叱るし」

「女だからってなんだ。
 お前たち、いつも男と対等に仕事してると認めて欲しいと言ってるじゃないか」

「そうなんでしょうね。
 専務はそうして、私たちを認めてくれているから、男子社員と同じように叱り飛ばすんでしょうね。

 でも、怖いです」
と目を閉じ、困ったような顔で言うので、笑ってしまった。

「特に最近、私には容赦ないですよね」

「当たり前だ。
 お前には特に厳しくすることにしている」
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