アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 でもなー、人の好みなんてそんなもんだよな。

 うちのお父さんだって、お母さんの何処がよかったんだか、と思うけど、本当に好きだったみたいだし、と思いながら、那智は、社長室のあるフロアに上がった。

 すると、すぐに遥人は居た。

 ……なにやってんだ、この人。

 遥人は壁に寄り添うように立ち、その向こうを伺っている。

 どっかのスパイか、張り込み中の刑事みたいだ、と思いながら、
「あの」
と那智が声をかけようとしたとき、こちらに気づいた遥人に引っ張られ、手で口を塞がれた。

 うわっ、と思う。

 抱きつすくめられるような形になったからだ。

 冷たい雰囲気がして好みのタイプではないが、遥人は初めて見たとき、かなり驚いたくらいの美形だ。

 ただ、顔が整いすぎていて、面白みがない、と那智は勝手に思っていた。

 それを言ったら、お前の顔は面白すぎるだろ、と遥人に突っ込まれそうだが。

 うーむ。
 好みじゃないと言っても、こんな人に抱きつかれると、緊張してしまうのだが。
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