創世記〜アナザー〜
命そして善悪認知の種
あれから一週間がたった。
いつ他の世界に飛んでしまうのか不安で寝るときはいつも緊張して種を握りしめていた。
種を植えるだけって本当それだけなのか…?
「なーに難しい顔してんの!!」
なんだよユイかよ…
驚かせんなよな。
「まぁいいじゃないのー。幼なじみのよしみってコトで!そんなコトより、なんでそんな顔してんの?
珍しいね考え事なんて。
大学の講義はろくに聞いてないくせに。」
余計なお世話だよ。
お前には関係ねぇ。
「冷たいなー、まぁいいけど。早く教室でないと次の人くるよー。」
ああ、悪いな。
ユイから視線を外した瞬間急に強い眠気が俺を襲った。
この感覚…まさか。
深い眠りに落ちていくのが自分でもわかった。
深い深い霧に包まれているようだ…


どれくらい寝ていたのだろうか。
目を開けると目の前が真っ白になっている。
ここは、どっちの世界だ?
足元に植物が生えている。
そうか。ここは植物の世界。
とにかく種を植えよう。
種をポケットから出した。
その瞬間一気に霧が晴れ、植物のツルで作られたビル群が目の前に現れた。
街が全部植物でてきてるのかよ…
「そこの君!今ポケットから出したのはなんだ!まさか種じゃないだろうな!」
いきなり後ろから怒鳴られた。
驚いて後ろを振り返るとスーツを着た男が立っていた。
「君、なぜ種を持っている?どこから持ってきた?」
えっと、この世界とは違う世界…です…
「違う世界…?まさかエノクか?」
エノク?俺がそんなところから来ていない。あんた達とは違う世界、まぁ滅んではいないけどな。
「エノクではない…?だとすればミデンか。とにかく種は植えるなよ。私について来なさい。ミデンから来たのならば悪いようにはしない。」
俺たちの世界はミデンって呼ばれてるのか。ここで種を植えるのは無謀だな。とりあえず付いていくか。
しばらく歩いているとまた霧に包まれた。
あのー?見えないんですけどいますよね?
「真っ直ぐ歩いてくれ。じきに霧は晴れる。」
方向感覚がなくなりそうだった。
少し歩くと段々と霧が晴れてきた。
ここはなんだ?会議室なのか?
まさかあの霧はワープの装置…?
「座ってくれ。これから少々取り調べをさせてもらう。決まりなんでな。」
わかりました。
「早速だが、君が植えようとした種はミデンのモノか?」
正直に話さないと面倒臭そうだ。
俺の元々いた世界じゃない。
アダムからもらった。アダムの世界をなんて言うかはわからない。
「今アダムと言ったか!?何てことだ…
悪いが君は元の世界には帰れない。それと、この件は私の手には負えないほど重要なことだ。」
は?どういうことだよ!?
アンタの手に負えないってどういうことだ!
「落ち着いてくれ。君はその様子だと何も知らされていないんだろう?
君には非がないことはその様子でわかるが、まずはこの国を治めている方に会ってもらいたい。」
この世界を治めてるって…
種を植えることがそんなに重罪なのかよ…
アダムは大丈夫とか言ってたけど、全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか。
「君の処分はあの方次第だ。嘘をつこうなんて可笑しな気は起こさないでくれ。」
また訳のわからない間に話が進んでいくのか…
「君はそこに座っているだけでいい。霧が出ても立ち上がらないでくれ。霧が晴れたら王がいらっしゃる。事情は知らされていないだろうが王の御前だ。礼儀を忘れるな。」
やっぱり霧はワープみたいなもんか。
いきなり王とかマジかよ…
また霧に包まれていく。
すげぇな、一体どんな技術なんだ?
少しずつ霧が晴れてきた。
なんだここ…
俺の椅子の両脇には水が流れていて睡蓮のような花が咲いている。
リゾートホテルの庭のような場所だった。
「エデンの使者よ、我が城へようこそ。」
いきなり目の前に人が現れた。
絵本で見たような羊飼いの格好をしている。
この人が…王?
「そう。私が王のアベルだ。そう気を張らなくていい。くつろいでくれ。」
はぁ…それなら。
リラックスすると暫く沈黙が続いた。
アベルは終始にこやかで少し気持ち悪かった。
先に口を開いたのはアベルだった。
「まずは君の質問を受け付けよう。全ての話はそれからだ。アダムやエバには何も聞かされてないのだろう?」
はい。じゃあ。
この種は一体なんなんですか?
なぜコレを植えなければならないんです?
「いきなり核心を突いてきたね。僕の知る範囲でなら答えよう。その種は一つは命の種。もう一つは善悪認知の種だ。」
それってエデンの園の…
「そうだ。なぜこの種を植えなければならないかというと、この世界には命の木が存在する。しかし、善悪認知の木が存在しない。善と悪の区別がないこの世界では争いは起こらない。そのために生物が溢れかえっている。どういうことかわかるかい?」
バランスを取るために種が必要ってこと…?
「そういうことだね。しかし、善悪認知の種を植えることでここの植物は壊滅状態に陥るだろう。」
善悪が認知できるだけじゃないってこと?
「そう、ここの植物は意志をもって生きている。そんな彼らが悪を判別できるようになったら争いが起こり、かなりの数の植物が死滅する可能性がある。」
……まさか、ノアの箱舟…。
「やっぱり君は鋭いね。その通りさ。全種類の植物と生命を一時的にエノクへ避難させる。避難させたうえで善悪認知の種を植えるんだ。」
まじかよ。聖書の中の出来事が実際に起こるなんて…
でも、アベル達はエノクへは行けないじゃないか?
「そう。僕たちは行けない。しかし、君ならいけるだろう?」
まさか、俺をワープ代わりにするのか…
「言い方は良くないがその通りだ。協力してくれるね?」
種が植えられるなら問題ない。
でも、次俺が違う世界に行ったとしても、アベル達が一緒に行けるとは思えない。
「そんなことは簡単さ。僕たちが小さくなればいい。ココにはそんな植物もある。君の手の中にさえいれば種も移動できただろ?」
なんでもアリだなこの世界は。
わかった。いつ移動の時が来るかわからない。すぐに準備してほしい。
「そこは安心してくれ。僕たちも君たちの世界にはいけるんだ。その証拠としてトウモロコシが君たちの世界にはある。」
トウモロコシ?
テレビで見たな…突然現れた宇宙植物って説があるって…
「アレは僕たちが与えたのさ。ミデンのバランスが崩れてしまうとこちらの世界にも影響がでるからね。」
マジかよ…この世界の存在を証明できたらノーベル賞モンだぞ…
まぁ、今は早く帰ろう。
種はドコに植えるんだ?
「君の足元でいい。そこに植えてくれ。」
足元?でもここは城の中じゃ…?
辺りを見渡すと場所が変わっていてアダム達に種をもらった場所と似た場所になったいた。
いつの間にワープしたんだ…
とにかく今は種を植えよう。
種を植え終わると強い眠気が俺を襲った。
ああ、元の世界に帰るのか。

目がさめると俺の手の中には命の種と船があった。
この船の中にアベル達はいるのか…
植物が入ってるとは思えねぇな…
「カイト!何やってんのー!もう次の講義始まるよ!早くでないと!」
ユイ、わかってるよ!デカイ声出すなよ!
「あはは、彼女とは仲がいいんだねぇ。僕もやっとカインと仲良くできるなー」
嘘だろ…
スーツを着たアベルが横に座って、こちらに向い微笑んでいる。
なんでアベルがここにいるんだ!
小さくなったんじゃないの!?
「僕だけ戻ったのさ。中は窮屈だからねー。君がエノクへいくまで僕は君と行動を共にさせてもらうよ!」
マジかよ…
最悪だ…
「カイトー?何話してんのー?早くでないと!」
わかってるよ!
余計な事話すなよ!いいか!
「わかってるよー。……………
僕には目的があるからね…」
あ?なんか言った!?
「なんでもないよ。さぁ、早くここから出ないと!」
ニヤニヤすんな!!

「ねぇカイト。横のイケメン誰?」
え、あ…
えっと…
「アベルです。よろしく!」
おいアベル、俺たちの世界に干渉していいのかよ?
「大丈夫だろう?種の事は知らないほだから。」
そうだけど…
俺に急に眠気が来たら察しろよ。
その時は移動の時だ。
「了解。」
頼むから変な事はしないでくれよ。
「ちょっと!何コソコソしてんの!?私もまぜなさいよ!」
ユイには関係ない事だよ…
「何ソレ…男の友情?
うわぁ、キモ…」
コイツとはまだ友情なんかねぇよ
だってこいつは…
「カイト君?何も言わないんじゃないの?」
ん?あ、そうでした…
「何よ。隠し事ー?カイトのクセに生意気。」
うっせぇな
お前は黙って…
おいちょっと待て。
なんでもう睡魔が…
早すぎるだろ。



「カイト!カイト!起きてよ!」
ユイ…?なんでユイが…
ココはエノクじゃ…?
「カイト!よかったー!死んじゃったかと思ったー!」
どういう事だ…
俺はエノクに飛んだんじゃないのか…
「君は倒れたんだよ。」
アベル…
俺が倒れた?なんで?
「過労だそうだ。」
過労?そんな無理してないぞ?
「ユイさん2人で話したい。少し外してくれるかい?」
「2人で?まぁいいけど…カイト!ちゃんと寝てなさいよ!」
ドン!
ドアくらい静かに閉めろよ…
アベル。俺の過労に心当たりあんのか?
「うん。君は短い期間で4回も世界を移動しただろ?それが原因さ。世界を移動する事は自覚していなくてもかなりの疲労になるんだ。」
そういう事か…
てことは…もし、今度近いうちにエノクへ移動したらまたぶっ倒れるかもしれないのか!?
「可能性はあるね。しっかり休むといい。これからは大変だからね。僕は移動するまで舟に戻るよ。舟と種は横の机に置いてあるからね。それじゃあ、またね。」
そう言ってアダムはいなくなった。
舟に戻ったのだろう。
取り敢えず舟と種はポケットに入れておこう。
過労のせいか…
眠くなってきた。
取り敢えず今は休もう。
俺は深い眠りについた。
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