不機嫌な恋なら、先生と
「だって、先生が、そんなことを言うとは思わなかったから」
「そう? 俺だって、人間だからいろいろ考えが変わるんだよ」
「先生ってそういうことに対しては、ドライなのかと思いました」
「失礼な。まあ、そう思ったのは、少なからず箱崎さんの影響かもね」
「私のですか?」
私は、ピンとこなくて訊き返す。
「ああ。この前、箱崎さんが、俺に言ってくれただろ?小説のことを否定してるかもしれない大事な人にも見せたらいいって。あれから少し考えたんだ」
大事な人とは、先生の両親のことだ――あの夜、私が先生に言った言葉は聞き流されたと思っていたから驚いた。
「確かに、どうせ認めてくれないからって、読んでもらおうとさえしてなかった。それなのに、いい小説を書いて、納得させてやりたいっていう気持ちもどこかにあって。自分でも意識してなかったけど、どこかで、親に自分は認められてないから、この仕事を公にできないと思っていたことにも気づかされたよ。そんな自分が、この先、小説家として生きていけるのかと考えたら、違う気もしてきたんだ」
「なんでですか?」