不機嫌な恋なら、先生と
図星だった。
入社したての私は、編集者といったらすぐに現場に行かせてもらえて、企画を考えて記事を書くということができるものだと甘く見ていたんだ。
実際は電話番、コーヒーを出す、片づけ、スタジオの掃除やケータリングの準備、プレスの片づけ、雑用ばかりで、それなのに、それさえも失敗してまともに仕事をしているなんて言えない。胸を張れない。
毎日、何の仕事をしているんだろう。本当にこの先に編集者という未来があるのかさえわからない。本をつくるなんて、できるのかって。不安になるんだ。
そして、やりたい部署じゃないからって、出来ない自分に言い訳をしてる。
いつか文芸書を自分の手で作る。
それが私の夢であって、ファッション誌で、作家の先生と関わりを持つということは、夢の第一歩だと昼間、沙弥子さんに言われたときは思ったはずだったのに。
ただ昔の凜翔先生との思い出が、私を先に進ませることを塞ぐなんて、社会人として失格だ。
先生のこと知らないふりしながら、実際こんなことを口に出せるなんて、なんだかんだ甘えているんだ。
先生を知ってるから言えたんだ。
じゃあ、いいやなんて、先生が言ってくれると思ったんだ。
学生気分が抜けていないと言われても仕方ない。
そして、思い出す。
『匂坂先生の顔、公表できたら、箱崎さん、文芸部いけるかもよ?』
先生が私を小説のモデルとして利用したいなら、私も先生を利用する。とことん付き合って弱味を握ってやるんだ。
覚悟を決めた。