不機嫌な恋なら、先生と

「ななな……何をおっしゃいますか」

「わっかりやすいな」

「あります。今だって」

付き合っている人いるんですからと言おうとしたのに、先生は「彼氏、本当はいないでしょ?」と、遮った。

「え?」

「やっぱりね」

「やっぱり……って。何を」

「この前、電話で合コンがどうのって言ってるの聞こえたから。今日だったんでしょ?箱崎さんは、彼氏いたらそういうとこに、行かなそうだから」

「あっ……」

「なんで嘘を吐いたの?」

とりあえず笑ってごまかそうとしたのに、先生は至って真面目に「俺が嫌いだから?」と、訊いた。

ぐっと口を結んだ。彼氏がいると言い続けるべきか悩んだからだ。だけど、先生はそれを私が嫌いだと言ってるように受け取ったらしい。

「当たった」

お酒のせいだ。本当の気持ちを顔に出してはいけない。

好意的な顔を作らなきゃと思う。

これは仕事なんだ。先生と会うときは、全部仕事なんだ。偶然でもなんでも。

だけど、うまく笑えなくて、巻いていたマフラーに顎を埋める。顔が見れなかった。

「知ってる?嫌いって好きにもなれる可能性があるってことだよ」

そういって先生は、私の頬に手を添える。顔を少し上げさせられた。

雪が舞い降りる中、先生は私のおでこに優しく唇をあてた。
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