御曹司と溺甘ルームシェア
あの時、抵抗が無駄な足掻きだと知るのに時間はかからなかった。

小雨だった雨はどしゃ降りの雨に変わり、身体が冷たくなって……私の身体は動かなくなった。

助けは来ない。私はこのまま……やられる……そう思った。

絶望の中……全てが真っ暗になって私は心を手離した。

それは……自己防衛の本能だったのかもしれない。

心をなくせば、何も感じなくなる。心をなくせば、何も考えなくなる。

それなのに……かすかに聞こえたんだ。あいつの声が。

『寧々?寧々?』

記憶をなくしても響人の声はなぜか覚えていて、私はじんましんの原因をあいつのせいにした。

でも、違った。

響人は私を助けてくれたのに……。

あいつが来たのだけは感じた。

ベッドから起きてバスルームにこもったのは、ひとりになりたかったから。

鏡を見なくても、自分の頬の傷の酷さはわかってた。あんなに強く殴られたんだから。
< 194 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop