クールな社長の甘く危険な独占愛


さつきは秘書室の扉をあけ、こっそりと顔をのぞかせた。

「あっ、長尾さん」
一番に出社していたリカが、大きな声を上げた。

「あれ? 有休とるんじゃないんですか?」
手に雑巾を持ちながら、パタパタとさつきのところに駆け寄ってきた。

「えっと、それがね」
さつきは気まずい気持ちでうつむく。「退職するの、やめたの」

「ほんと?! じゃあ、結婚は?」
「破談に」
「えーっ」

リカは悲しそうな顔で叫んだ。

「じゃあ、傷心なんですね」
「まあ、一応……」
「個人的には長尾さんが残ってくれると嬉しいけれど、でも手放しで喜べないなあ」
「いろいろ騒がせちゃって、ごめんね」

さつきは自分の席に座った。

「くしゅん」
座った途端、くしゃみをひとつ。

「あれ、風邪ですか?」
リカが隣から心配そうに覗き込んだ。

「うん、ちょっと」
濡れたまましばらくいたから、軽い風邪をひいたらしい。ちょっとだるいようにも思う。

「薬、ありますよ」
「じゃあ、もらおうかな」
「いいですよ」

リカが自分の引き出しを開けたその時、秘書室の扉が開いた。

リカが慌てて立ち上がる。さつきも素早く立ち上がった。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」

社長が出社してきた。
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