クールな社長の甘く危険な独占愛


「疲れた」
さつきはカバンをソファに投げると、その横にどさっと腰を下ろした。

あの父親の毒気に当てられたのか、頭がジンジンする。さつきはこめかみを押さえたまま、カバンの中をかき回して頭痛薬を取り出した。

あの家は本当に大変だ。

初めて社長に少し同情した。

あんな強い父親の元に育ったら、ひねくれて外に飛び出したくなるのもわかる気がする。父親に歯向かって、離れたところで成功した社長は、本当に優秀な人なのかもしれない。普通なら飲み込まれて、出てこれなくなる。

『悪かった』

社長の言葉と体温は、さつきの身体の震えを止めた。もう何度も、遊びの延長でキスされそうになったり、抱き寄せられたりしたけれど、あの抱擁はいつもと違い、とても安心した。

さつきの胸が少し高鳴る。けれどそんな自分をごまかすように「だめだめ」と声にだした。

社長と向き合っちゃだめ。
それこそ、巻き込まれて、元の自分には戻れない。
遺言通りに結婚しようとしている、今の自分に。

『あの女の二の舞はごめんだ』

ふと、あの父親の言葉が蘇った。

あの女?

コップに水を入れようと、蛇口に伸ばしていた手が止まった。

かつて、父親に紹介した女性がいたんだろうか……。

高鳴っていた胸に、じわりと痛みが広がる。

さつきは首を振って、痛みを止めるため頭痛薬を口に入れた。

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