彼は黒で彼女は白〜俺様社長の甘い罠〜
「…私は、飛天旅館の創業者相馬尊と、フランス人の母の間に生まれたので、ハーフなんですよ。父に似ていない私は、随分と重役達から色々言われた…すみません、余談ですね。そこにお座りください」

…初めて会うのに、今の話を聞いた雪は、相馬の心の中を垣間見た気がした。

「…おっと、肝心な事を言ってませんでしたね。私の名前は、相馬清琉(そうませいる)と言います。先程は、初対面と言いましたが、貴女の旅館には、何度も足を運びました。父はいつも、貴女のご両親が経営する旅館を手本にしろと言ってました。きめ細やかで行き届いた心遣い、代々続いてきた老舗旅館ならでわで、今後も続いて行くと思われた。しかし、不況というものは恐ろしい。そんな老舗旅館にも不況の波が押し寄せた。たちまち経営難に陥った旅館を立て直すだけの経営力が、貴女のご両親には無かった。これをご覧ください」

雪に手渡したのは、ここ最近の旅館の客数やその他もろもろが書かれた書類だった。…雪が想像してた以上に悪化しているようだった。

「…私は純粋に、あの旅館が好きだ。だから、名前もそのまま、外観も内装もそのままに、経営をしていきたい。それは、私一人では無理なのです」

「…何がおっしゃりたいんですか?」

「…資金や経営面では、飛天が力を貸します。しかし、貴女のお母様が女将をする必要性がある。もちろん、その後の女将も必要だ。その後継者は、貴女だ。雪さん。就職してからずっと、社長秘書をしてきた貴女は、立ち居振る舞いは完璧だ。しかし、女将のノウハウまでは知らない。だから、貴女のお母様が元気なうちにそれを全て引き継いで欲しい。そしてそれと同時に、私の妻になって欲しい。私は、貴女を何度も旅館で見てきた。何度も見ているうちに、私は雪さん、貴女に惚れた。貴女が頷いてくれるなら、この旅館を守る事なんて、なんて事はない。直ぐに結婚なんて考えていません。まずは私を知ってもらわなければならないと思ってます。どうですか?悪い話ではないと思います」
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