愛は世界を救えるか
***

「スズ、指名が待ってる。早く行ってやれ」

「あ〜ん静馬さん♡」

「煙草は控えろ」
「だってぇ、あのヒト自慢ばっかでつまんない〜」
「お前はそれを笑顔で聞くのが仕事だ。今月は売上いいみたいだからこの調子で過去最高額とったら好きなとこ連れてってやる」
「ほんとに!?じゃあスズ、静馬さんとホテル行きたいなぁ♡」
「それは却下。知ってるだろ」
「知ってるけどー、もー。勿体ない。静馬さんこーんなにカッコイイのにゲイなんて」
「いいから、早くいけ」
「はいはーい、ノルマ頑張りマース」

雨に晒されて錆びた吸殻入れに短くなった煙草を入れ、赤いドレスを翻しながらそのキャバ嬢はオレンジの光がもれる扉の向こうへ入っていった。

それを確認して、静馬はジャケットの胸ポケットから煙草を取り出しZippoで火をつけた。
週末の客入りはいい。自分の立場上、もう現場に出なくてもいいのだが、自分の目で確かめるのが一番いい。
いい意味でも悪い意味でも大概の人間は目を見れば何を考えているのかわかる。

火をつけてから先の灰が落ちそうになるギリギリの所で吸殻入れに落とした。
視線を下げる。
視界の端にこのビルと隣のビルの間の細い路地が見えた。
人影が1.2....4?いや、5か。
1人は倒れてるから分かりずらかったが、確かに5人の影がそこにはあった。
見るからにチンピラと思しき男が数名と落ち着いた色のセーターを着た小奇麗な男が1人。

「なんだ。カツアゲか?また物騒なことしやがる」
そう呟いて二本目の煙草を取り出し再び火をつけようとした静馬はその手を止めた。
薄暗い路地に目を凝らす。


多分最初は4対1だったのだろう。
1人をのして3対1になったセーターの男は次々に残りのチンピラをいなしては最小限の力で落としていった。
そのなれた動きは明らかに素人のそれとは違った。

最後に残った1人がポケットに手を入れた瞬間、静馬には何が出てくるのかすぐに察した。
怪しく光る手のひらほどの大きさのそれを出した瞬間、チンピラが構える前にセーターの男は相手の手首ごと蹴りあげ、手に持っていたナイフを地面に落とさせた。
そしてそのまま相手が怯んでいる隙に落ちたナイフを路地の奥へと蹴り飛ばす。

チンピラも薄々感じていたのであろうが、今の一連の動きでそれが確信に変わったらしく、その表情には恐怖の色が浮かんでいた。

「…喧嘩を売る相手を間違えたな」



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