二十年目の初恋
秋の日に 11

 悠介を送り出して、あったかいコーヒーをひと口。

 ここで一緒に暮らし始めて五ヶ月が経った。悠介に愛されて大切にされて心から幸せなんだと思う。やっぱり相性の良し悪しって確かにあるんだろうなと。


 明日の朝、悠介の妻になる。生涯悠介を愛して悠介に愛されて生きていく。人生は長い。その途中に何が待っているのか予想もつかない。でも悠介となら乗り越えていける。そう信じられるから結婚を決めた。

 そうだ。絵里に電話しよう。携帯のメモリから呼び出し音……

「はい。優華? 元気だった?」

「うん。元気よ。今いい?」

「うん。大丈夫よ」

「実は絵里にだけは報告しようと思って。私、結婚することになったの」

「えっ? 結婚式?」

「二度目だから地味婚よ。明日二人で区役所に婚姻届を出して旅行するの」

「そう。優華おめでとう。良かった。で、どんな人なの? 優華のハートを射止めた人は?」

「うん。幼なじみなの。小さい頃から良く知ってた」

「優華のこと、ちゃんと大切にしてくれる人?」

「うん。とっても」

「前の結婚のことも?」

「ちゃんと話してあるから」

「優華。絶対幸せになってね。心から願ってるから」

「ありがとう。絵里は、今、幸せ?」

「まあね。父の病院を継いでくれる産婦人科医と政略結婚みたいだったけど。今は幸せよ。真面目な人だし」

「そう。樹里ちゃんは大きくなった?」

「うん。もう四年生よ。生意気で困るわ」

「それは絵里に似たんでしょう?」

「そうね」

 二人で笑った。

「優華みたいな良い子が幸せになれないなんて有りえない。今度こそ幸せになれるよ。昔のことはキレイサッパリ忘れるのよ」

 絵里の気持ちが嬉しかった。近い内に会おうねと約束をして電話を切った。


 そして夜が来て……。あったかいお鍋が出来上がった頃ほとんど定時に悠介は帰って来た。

「ただいま。いい匂い。鍋?」

「おかえりなさい。そう、お鍋。あったまるわよ」

「着替えて来るよ」

 二人で鶏の水炊きを食べて。

「うん。美味い。いくらでも食べられそう」

「明日は帰らないから食べちゃってね」

「任しといて」

 悠介は見てて気持ち良いくらい、しっかり食べてくれた。

「男は胃袋で掴めって言うらしいけど優華には何もかも掴まれてるよな」

「えっ?」

「それだけ優華は女性として素晴らしいってこと」

「誉められてるの?」

「勿論だよ」

「じゃあ、ありがとう」

 後片付けをいつものように二人で済ませて旅行の荷物をチェックして明日着る物も用意して独身最後のお風呂に二人で入って温まって、いつもより早くベッドに入った。

「優華、俺は結婚しても変わらない。今まで通り優華を大切にしていくよ」

「う~ん。私は変わるかもしれないわよ。逞しい主婦に変身しちゃうかも」

「いいよ。もう少し太ってもいいし。頼もしい主婦なら大歓迎だよ」

「私を選んで良かったって思われたいから、いい奥さんになるからね。だから気に入らないところは教えてね」

「今のままで充分いい奥さんだよ。この五ヶ月で本当にそう思ったから。きっと幸せにする。一緒に幸せになろうな」
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