二十年目の初恋
痛み 10
「ううん。まだ半分も飲んでないよ。悠介、どうして京都の大学に行っちゃったの?」

「えっ? どうした? 今頃そんなこと聞いて」

「私ね、大学に入って、もしもマドンナと付き合ってなかったら、悠介に好きだって言おうと思ってたのに……。京都に行ったってことは、やっぱり私は悠介にとって、ただの幼なじみってことなんだなって……」

 じゃあ……もしも俺が京都の大学に行ってなかったら……。

「悠介、成人式も帰って来なかったし。私、おばさんに振袖姿見せてねって言われてたから成人式に行く前に見せに行ったのに……。おばさん言ってた。悠介、バイトが忙しくて帰れないって言ってたけど、向こうで彼女でも出来たのかしらねって。あの時、もう悠介は諦めようって決めたんだ」

「いや、あれは本当にバイトで休めなくて……」
 バイト、クビになってでも帰って来れば良かったな。そしたら、こんなに遠回りせずに済んだ。優華を他の奴に取られたり泣かせることもなかったんだな。

「ごめんな。優華……」

「…………」

 返事がないのを不思議に思って顔を見たら、優華は俺の肩に頭を乗せたまま眠ってしまっていた。

 手に持ったままのビールの缶をテーブルに置いて、そっと優華を抱き上げてベッドまで連れて行って寝かせた。
 よく眠ってる。綿毛布を掛けて、しばらく寝顔を見ていた。

 すると眠ってる優華の目から涙がスーッと零れて落ちた。

 夢の中でまで泣くのか? そんなに辛かったのか?

「ごめんな。守ってやれなくて……」

 京都の大学を選んだのは、一度親元を離れてみたかった。ただそれだけの理由なんだ。

 優華と離れたかった訳じゃない。でも京都に行く前に、ちゃんと告白さえしておけば……。優華が好きだって伝えてから行けば良かったんだな。

 今更、言っても遅いけど……。優華なら遠距離になっても待っていてくれたよな。


 こんな華奢な体の中に、どれだけの痛みを抱えてるんだ?
 俺が、その痛みを消し去ってやることは出来るのだろうか?
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