二十年目の初恋
二人 4
 浴衣姿の二人は窓辺に置かれたソファーに並んで腰かけて、遠く広がる初夏の美しい山々をうっとりと眺めていた。

「本当に綺麗よね。今の季節は緑が……」

「優華の方が綺麗だよ」

「また、お世辞?」

「お世辞じゃないよ。本気で言ってる。そういえば優華、子供の頃、赤い浴衣着てたよな」

「覚えてるの? 赤地に白い花柄の浴衣」

「覚えてる。一緒に縁日行っただろう?」

「悠介は紺の甚平着てたよ」

「覚えてるのか?」

「だって悠介、下駄の鼻緒が痛いって歩くの嫌がって、おじさんに、おんぶして貰ってた」

「下駄って初めて履いたから本当に痛かった。優華、平気な顔して歩いてたよな」

「女の子は少しくらい痛くても綺麗になる為なら我慢出来るのよ。知ってるおばさんとかに優華ちゃん綺麗なんて言われると嬉しくて」

「幼稚園児でも女なんだなぁ。凄いわ」

「女の方が痛みに強く出来てるんだと思うけど。いろんな意味でね……。男の悠介には分からないと思うけど」

「そうかもな。男が出産したら痛みで死ぬって言われてるもんな」

「出産した友達に痛かったって聞いたら、痛いっていう言葉を百万個並べても足りないって」

「そんなに大変なんだ。俺、男で良かった」

「私は経験出来そうもないけど……」

「優華、まだ気にしてるのか? 子供は出来なくても構わないって言ってるだろう」

「うん。ごめん」
 悠介の気持ちは嬉しいけど……。

「俺は優華さえ居てくれたら、それだけで十分、幸せなんだ。だからもう言うな気にするな分かったか?」

 悠介に頭をそっと撫でられた。

「そろそろ夕食だよな。どんなご馳走だろう。優華、今夜は飲むか? ここはワインが美味しいらしいよ」

「うん。飲もうかな」

「優華が酔うところ見てみたい」

 その時、電話が鳴った。

「おっ、出来たのかな?」

 悠介が出て、一言二言、返事をして受話器を置いた。

「さあ、行くぞ。きょうは優華を酔わせるからな」


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