二十年目の初恋
二人 6
「おっ、畳の上に布団を敷いて寝るなんて久しぶりだな」

 悠介は嬉しそうに布団に潜り込んだ。

「あぁ、気持ちいい」
 そのまま声が聞こえなくなった。

 悠介、寝ちゃったの? 

 幸せそうな顔して、子供の頃の悠介の寝顔と変わらない。可愛いなんて言ったら、悠介、怒るかな?


 ちょっと酔ったかな。ワイン美味しかった。一人で窓辺のソファーに座った。

 外はもうすっかり暗くなっている。人工的な照明が、ほとんどない山々はダークグレーのグラデーションが空まで続いていて、昼間とはまた違った雄大さを見せてくれる。

 来て良かった。こんなに、のんびりした気分は久しぶりかもしれない。


 この一年……。

 私の今までの人生の中で最悪の一年だったと言える。たった一本の電話から全ては始まった。私一人が知らなかっただけで、もう既に、あの二人は始まっていたけれど。


 夫の愛人……。

 そんなことドラマや映画の中の出来事でしかなかった。まさか私の結婚生活に現実として起きるなんて……。

 離婚して私が、いわゆるバツイチになるなんて想像も出来なかった。


 恋愛して結婚して、子供を産んで育てて母親になって、いつか、おばあちゃんになって……。

 そんな普通の生活が、穏やかな毎日が私には似合っていると思っていた。


 恋愛結婚だったのに……。好きだったはずなのに……。愛したはずなのに……。そんな気持ちさえも思い出せない。

 別々の道を歩き始めたのだから、もう忘れよう全てを……。

 私はこれから悠介と二人で歩いて行くと決めたのだから。

 愛し合う悠介と生涯を共にする。それは幸せなこと以外のなにものでもない。離婚は私達を巡り会わせる為の試練だったのかもしれない。辛い思いを経験してから本当の幸せを心の底から感じるための。


「優華、こっちへおいで」

「起きてたの?」

「少しだけ眠ったよ」

 悠介の傍まで行って、となりの布団の掛け布団をめくり、そこに座った。

「そこじゃないよ。こっち」

 悠介は掛け布団をあげた。


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