二十年目の初恋
愛される資格 12
「きょうは、お願いがあって伺いました」

「そうですか。とにかく、お掛けになって。どうぞ」

 副学長はソファーに腰掛け、理事長が座るのを待った。理事長は副学長の正面に座って

「お願いというのは実は……。私の秘書が今月いっぱいで辞めることになりまして」

「今月って、また急な話ですね。六月いっぱい。後、十日もないじゃないですか」

「ええ、そうなんです。それでこれは、お願いなのですが。副学長の有能な秘書を譲っていただけないかと思いまして」

「それは、お断りする選択肢もある、お願いですか ? それとも、お断りしても辞令という形で強行されるものですか ?」

「出来れば納得していただいての辞令にしたいのですが」

「彼女の気持ちもありますし、少し時間をいただけますか ?」

「はい。結構です。良いお返事を期待しております。それでは私はこれで」

 私は自分のデスクで二人のやりとりをまるで他人事のように聞いていた。というか金縛りにでもあったように動けずにいた。理事長を送り出しドアを閉めて

「どういうこと ? 金曜に何があったの ?」

「何もありません。私にもどういうことなのか……」

 私は金曜にあったことを全て話した。

「そう。とにかく良かったわ。何もなくて。でも今度は断っても無駄なようね。どうする ? いいえ、あなたはどうしたい ?」

「理事長の秘書になるくらいなら大学を辞めます」

「辞めて、どうするつもり ?」

「実は結婚の約束をした人がいます」

「そう。おめでとう。彼は今回のこと知ってるの ?」

「はい。とても心配してくれて……。マンションを引き払って彼のところで一緒に住み始めました」

「そうだったの。大変な週末だったのね。でも理事長、あなたにかなりご執心のようね。私が男なら、やっぱり放ってはおけないでしょうね」

「副学長、冗談言ってる場合じゃないです」

「あっ、ごめんなさい。でも……。同じ女性の私から見ても、あなたはとても魅力的な人だと思うけど。どうしてあなたがバツイチなのか信じられないくらいね」

「それは……」

「あっ、ごめんなさい。立ち入り過ぎた。ところで本当に大学を辞める覚悟はあるの ?」

「どういう意味ですか ?」
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