二十年目の初恋
引っ越し 3

 それなのに……。離婚を承諾して貰えない。その理由も分からなかった。納得出来ないまま私はここで一人で暮して来た。幸い仕事を続けていたので、一人でも困ることはなかった。仕事が私にとっては気分転換にもなっていた。

 家を出てから離婚まで半年……。その間の私をそっと見守っていてくれた部屋。良い思い出などないけれど唯一の安らげる場所だった。

 今まで、ありがとう。私の後に入ってくる人も慰めてあげてね。

「優華、どうした ? ボーッとして」

「えっ、うん……」

「また辛かった頃のことを思い出してたんだろ ? 分かり易いんだ優華は。すぐ顔に出るんだから」

「そう ? そうなんだ。自分では気付かないのに……」

「俺たち、これから幸せになるんだろう ? そんな顔してたら幸せの方が寄って来ないよ」

「うん。ごめん、気を付ける」

「優華……」

 肩を引き寄せられて優しく抱きしめられた。髪にキスされて……

「俺が幸せにするって言ってるだろ。信じないのか ?」

「信じてるよ。悠介なら信じられるから」

 その時、チャイムが鳴った。

「あっ、引っ越し屋さんだ」

 悠介は私の唇に、そっとキスして……

「は~い」

 と玄関に向かった。

 それからは、さすがプロ。あっと言う間に運び終わって。

「優華、戸締りして。マンションに戻るぞ」

「はい。分かった」

 窓を閉めて部屋をぐるっと確認して玄関を閉めて鍵を掛けた。

 悠介のマンションに戻って荷物を運んで貰った。和室にデスクとチェストと鏡と本棚。シーズンオフの洋服などが入ったダンボールも全て和室に運び入れて貰った。

「ありがとうございました」

 これで私の荷物が全てここに入った。ゆっくり片付けよう。もうここが、ここだけが私の居場所だから……。
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