明日の君と


10時少し前にチェックアウトにフロントに行くと朝日奈君はもうすでに来ていた。

「おはよう、朝日奈君。待った?」

「おはようございます、七尾さん。さっきチェックアウトしたばかりですよ」

彼はそう言って吸いかけのタバコを灰皿に押し付けた。
そこには彼の吸っていたタバコと同じ銘柄のものが4、5本あった。

「ずいぶん待たせちゃったみたいね、ごめんね」

「七尾さんは時間通りですから、なにも謝らなくていいですよ。僕が早く目覚めちゃっただけだから」

ニコニコしながら朝日奈君は言った。

「眠れなかったの?」

「いえ、アルコール大量摂取しましたから、即爆睡できました」

「朝日奈君て、意外とタフね」

私は笑いながら彼に言った。
彼は不思議そうな顔をしながら私を見ていた。
私はね、ほとんど寝られなかったの、そう心の中で呟いた。

「それじゃあ、帰りましょうか。そうだ、七尾さん、どっか寄って行きたいとこあります?」

朝日奈君はメガネをかけ直しながら訊いてきた。

「特にないけど、お土産は羽田で買おうと思うし」

「フライト3時ですよね。じゃあ近くだし池袋のサンシャインの水族館でも行きませんか?」

「えぇっ?水族館?」

「はい、水族館に」

「どうして水族館なの?」

「嫌ですか?」

朝日奈君は困ったような顔をした。

「嫌じゃないけど」

私の言葉を聞いて彼はニコッと微笑んで、じゃあ決まり、行きましょ、と私の荷物を持って歩き出した。

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