明日の君と


約束の時刻に駅に向かうと麻貴子はすでに来ていた。
5ヶ月ぶりに会う彼女は少し大人びた印象を与えた。
髪が伸びたんだな。
そのことが別れてからの時間の経過を実感させた。

「待たせちまったね。ごめん。元気だったか?」

ボクは軽く微笑んでみた。

「ううん、待ってないよ。樹君こそ元気だった?」

明るく花が咲くような笑顔を彼女はしていた。

「とりあえず、飯食っとくか、どこいこ?」

「前みたいにマックでいいよ」

麻貴子とは高三の春から今年の春まで約2年の付き合いがあった。
娯楽の少ないこの辺りではここのマックは貴重なデートスポットだった。
そんなことが懐かしく思える。
ボク達はお互いの近況を報告しあった。
驚いたことに麻貴子はボクの父の勤める地元の信用金庫に就職が決まっていた。
来年から社会人なんだなぁ
今春大学に入ったばかりのボクには想像つかなかった。


「樹君、ゴメンね」

彼女は不意に話を変えた。

「私ね、スゴく悩んでたんだ。春に言ったこと。樹君にとって、それに私にとっても正しいことだったのかどうかって。私ね、我慢できなかったの。樹君が遠くにいってしまうことに、そしてそれを羨む自分自身に。そして樹君にそばにいてほしいと思う時も、これからはきっと無理なんだろうってことにもね。ワガママなんだけどね、私の。そしてね、そういう自分がもっとイヤになっちゃったの。だけど、それを樹君のせいにすれば、自分が少しは楽になるかなとか、ズルいことも考えちゃってね。そうしたらね、別れれば楽になるのかな、なんて短絡的に思ってしまって。でもね、あとで気付いたの、逃げてるだけだったって。ごめんね、こんな話になって。ただ、樹君には謝りたかったの。都合いいように聞こえちゃうけど、樹君に嫌われたままお別れしたくなかったから」

彼女は涙を浮かべながら彼女の中で悩んでいたことをボクに打ち明けた。

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