強引同期が甘く豹変しました
「ねぇ、昼間もそうだったけど、私と矢沢が二人でこうやってごはん行くのって、初めてだよね」
「あぁ、そういやそうだな。つーか、同期会以外は何回誘ってもおまえ来なかったじゃん」
「そうだっけ?」
とぼけたフリをしたけれど、思い当たるフシは大いにあった。
長年、同期として付き合ってきた矢沢だけど、入社してから一年ほどは同期会以外でも飲みに行こうとよく声をかけてくれていた。
でも、バーベキューの夜の一件があってからは、ずっと森さんのことが気になってたし。
彼女の気持ちがあれからどうなっているのかもわからなかった私は、再び勘違いされたり面倒なことに巻き込まれないためにも、予防線を張るように矢沢からの誘いをいつも断わっていた。
すると次第に…矢沢から飲みに行こうと誘われることは全くなくなっていって。
「もう絶対誘ってやんねーから」と矢沢が言えば、私は「何でうえから目線なのよ」と言い返したり。
「ほんとおまえ可愛くねーわ」なんて言われたら、「あんたにだけは言われたくない」と言い返していた。
私たちは、いつからかそんな関係だった。
口を開けばくだらない言い合いをするような、そんな仲になっていった。
他の同期たちからは「本当おまえらって、いっつもなんか言い合いしてるよな」「仲良いのか悪いのかわかんないね」なんて言われるくらい。
テンポ良く繋がる会話のキャッチボールは心地良かったけれど、別にそれに対しては何とも思っていなかった。
「でもさ、俺以外とはたまに二人で飲みに行ったりしてたじゃん、真木とか」
「あぁ、真木とかニッシーは本当にたまーに行ったりしてたかな。真木は筋肉の話ばっかりだし、ニッシーはいつもゲーム片手にだったけど」
思い出しながら話していると、矢沢の声のトーンがやや低く変わった。
「なんかやっぱムカつくよな。俺が誘っても断わってばっかだったくせに」
「ははっ、何?スネてんの?」
「スネてねーし。ただ、何であいつらは良くてこの俺の誘いは断わってくんのか意味わかんなかったんだよ」
「いや、だからそれは…さっき話したじゃん。森さんのこともあったからだって」
「んなこと知らなかったし。や、知らなかったからこそだよ」
「えっ?」
「そりゃ20回も連続で断わられたら、さすがの俺も誘いづらくなるだろ」
「20回⁉︎」
思わず聞き返すと、矢沢は呆れた表情を浮かべて口を開く。
「そっ、飲みいこーぜーって誘い、20回。5回目くらいから数え始めたから」
「何で?」
「どこまで記録が伸びるか試してみようかなって」
「ふふっ、何それ」
笑ってそう答えると、矢沢の目が真っ直ぐにこちらを向いた。