飛べない竜と詩えない妖精
冬の終わり春の始まり
朝は弱い。正直ずっと布団の中でくるまっていたい――幻想種によって本当に様々で、同じ種でも千差万別である。なのでとくに怒られることもないし、主にこの学園都市では自主性を尊重され、自分で受けたい授業を予約したり課題をこなしていく感じなので全然問題ない。


眠い……。



「いつまで寝てんの」


ルームメイトの幻想種じゃない、唯一の友達と言っても過言じゃない朝倉直樹(あさくらなおき)。ごくごく普通のどこにでもいるような少年である。


手にはエコバッグをぶら下げている。おそらく朝の市場にでも朝食を調達しに行っていたのであろう。


「べつにいいだろ、今日オレは何も予定はないんだし」

「いやいや。何もなくても朝めしくらいは食べろよ、ほらいつもの買ってきてやったぞ」

「……わかったよ」


さすが優等生。しぶしぶ布団から出て、オレンジをカットしにキッチンへ向かう。果物ナイフで器用に切り分け、皿を差し出す。買ってきてもらった手前、しょうがない。 


「悪いな蓮冬。それより聞いたか?今夜の冬至祭(とうじさい)、竜舞があるらしいぜ」

「……ふーん」


気のない返事を返し――昨日のことがあったからすっかり忘れていたが、学園都市では季節ごとに祭りがある。


冬至祭。竜舞は見世物のようなものだ――意味のある神事ではなく、たんに盛り上げるための演出。

春には妖精祭、夏には夏至祭、秋には物語祭などといった、祭りが毎年開催される。その他にも小さな祭りがいくつか。




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