隣の彼は契約者

03*5



 あまりにも凝視していたせいか、またくすくす笑われてしまい顔を赤くする。


「す、すみません……!」
「いいえ。想像通りの方だなあと思って」
「え?」


 意外な言葉に瞬きする。
 そこに二つのカップが運ばれてくると、コーヒーを頼んだ大橋さんは砂糖だけを入れた。


「私が見てきた中の話ですけど、だいたい作家さんって書かれてる作品の主人公と似ているか、正反対の人なんですよ」


 スプーンで砂糖を混ぜ終えた彼女は息で冷やす。
 その口が途中で止まると、視線が私を捉えた。


「で、まひろ先生は後者。『隣の彼との秘密』を読んでて、ああこの方はちょっと自信がなくて、こうなったら良いなって夢を投影される方なのかなって」
「す、すみません……」


 的を射てるような指摘に顔を赤める。
 なんか夢見がちの妄想に浸る女みたいで恥ずかしいと口走ると、数口飲んだ大橋さんは苦笑交じりに手を振った。


「なに言ってるんですか。物語は夢を見るためにあるんですよ。私だって担当の作家さんが売れてて、しかもイケメンだったら……まあ、実際宝くじ当てる率ですけどね」


 頬を赤めていた彼女の熱が一気に引いた気がした。
 それがなんだかおかしくて、つい笑ってしまうと笑みを向けられる。



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