隣の彼は契約者

04*6



* * *


 しかし、現実は残酷だった。

 引き篭もっても考えることは同じ。
 大橋さんに謝罪のメールを送っても返信なし。
 小説を書こうにも“雅”と打つだけで硬直。
 終いには“みやび ふみ”をネット検索。

 人間とはなんて知りたがり屋なのだろうと悲しみに打ちひしがれる。
 幸いSNS類は一切しておらず、専属と言っていたように○×出版社以外の本は出ていなかった。なのに根強いファンがいるようで、交流サイトで度々話題に出ている。書籍の折り返しに『サンマ食べたい』とか謎のコメント書く人なのに。

 何より驚いたのが、最初の本が出たのが十年も前ということ。
 つまり高校生の頃から絵師として働いていたことになり、会社員より楽そうに思える私にとっては謎が深まるばかりだ。

 おかげで一話も更新できず土日が終了した翌日。
 より残酷な平日、会社、同じ課、隣の席。


「お、おはよう……ござぃま……す」
「…………おはよう」


 晴々とした天気とは正反対。
 真っ青な顔をした私に、早くも席に着いていた相沢先輩は流し目と挨拶を返すだけだった。
 入社して二年。こんなにも居心地が悪い出社ははじめてです。

 それからは極力隣を見ないよう仕事に集中。
 他の先輩に呼ばれても真っ直ぐ立ち上がり、隣が立てばお腹が痛いポーズ。すれ違う時は背中を向けての横歩き。驚く社員にはカニ歩き王を目指していると言えば微妙な顔と応援が返ってきた。



< 28 / 68 >

この作品をシェア

pagetop