隣の彼は契約者
05*契約


 定時を少し過ぎた時。
 携帯に美鶴ちゃんから『帰りどっかに寄らない?』のメッセージが入り、隣をチラ見する。

 私のデスクに紙を積み重ねていく相沢先輩は始終無言だったが、最後にペタリと貼られた黄色の付箋には『逃亡禁止』の文字。端っこには眼鏡と怒りマーク。
 そっと視線を戻した私は、同じ文章と絵文字を打った後に詫びを入れ送信する。仕舞うと、付箋のついた書類を手に取った。

 手製付箋だったんですね……。


* * *


「あれ? 珍しく相沢が残ってる」
「本当だ。いつもなら一番乗りで帰る……」

 仕事を終えた男性社員二人が物珍しそうに相沢先輩を見る。
 けれど機嫌が悪いとわかったのか、ゆっくりと私を見ると敬礼。そそくさと去って行く姿に見捨てられたのだと悟った。

 順に人もパソコンの明かりも頭上から注がれる電気も減っていく。気付けば日も暮れ、部署どころかフロアは私たちだけになってしまった。

 頭上の電気はまるでスポットライトだが、喜劇と言うよりは悲劇。
 こんなにも自分は仕事ができなかったのかと絶望しかけていた。実際ははじめて見る案件に、かれこれ三十分ほど頭を抱えているわけだが。

 すると、横から伸びてきた手に紙を奪われた。



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