隣の彼は契約者

06*8



 飲み干す勢いの私の耳に二人の会話が届く。


「編集長とのお話は済みました?」
「ああ……まひろと組ませてもらうのも承諾し……大丈夫か?」


 突然咳き込んだ私の背中を先輩が叩いてくれるが、大丈夫だと手を立てる。空耳だと思いたいこととは別を訊ねた。


「編集長さんと電話……?」
「ん? ああ……俺の担当は編集長だからな。その前が大橋だ」


 Vサインする大橋さんに、先輩が連絡先を知っていた謎が解ける。
 そしてまとめるだけのイメージがあった編集長さんも担当の仕事をしているのにも驚く。一番は先週の先輩の待ち合わせ相手がその編集長さんだったことだが。

 ビックな相手に頭を抱えていると若鶏のグリル焼きが運ばれてきた。
 私のお腹の音に呆れと笑み。違う表情に顔を真っ赤にすると、二人の前にも料理が置かれる。ナイフとフォークを大橋さんから受け取った。


「まあまあ、いつかご紹介しますね」
「はい……」
「ところで、みやび先生がまひろ先生を呼び捨てにしてるのは“先生”って意味ですか?」
「いや、恋人になったから呼び……おい、落ちたぞ」


 空耳だと思いたかった言葉を問われた上の回答に、手からフォークが離れる。床に落ちた金属音に慌ててテーブルの下に潜ると、動悸を激しくさせる頭上で会話が続く。


「ほほう、恋人ですか。青春ですね~……あ、ちょうど今、作中で二人がデートしてましたよね」
「ああ……そう言えば臨海公園でしてるところで止まってたな」


 大変読み込んでらっしゃる会話に恥ずかしさから顔を出すことができない。
 すると、ポンと頭に手が乗った。見上げれば逆光の中、小さな笑みを浮かべている先輩が映る。


「参考にデートするか……まひろ?」


 拍車のかかった意地悪な顔にまたフォークを落とした。
 参考って……恋人って……どれが本当の話なんですかーーーーっ!?





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