隣の彼は契約者

07*2



 改めて担当になってくれた大橋さんと、勝手に絵師になった相沢先輩の三人で食事をしながら打ち合わせをした月曜。
 始終私の作品話をする二人に居た堪れず黙々と若鶏を切っていたこと、気付けば先輩の携帯番号とアドレスをGETしていたことしか覚えていない。

 翌日には普通に『おはよう、大野』と挨拶され、昨夜のことは夢だったのかさえ思った。
 昼休み。ペタリと貼られた黄色付箋に『土曜デート。場所と時間決めろ』の文字と太陽イラストを見るまでは。慌ててデスクの下で丸くなり、『本気だったんですか!?』とメールを送ったものだ。

 送信しては隣からバイブ音が鳴るを繰り返し、心底何してんだと思う。
 でも『秘密の恋人』ならバレてはいけない気がするし、直接話す方が恥ずかしい。無駄に緊張しながら土曜の予定が決まったが、結局『恋人』になったかは聞けないまま今日を迎えた。
 視線だけ上げると、口元に手を寄せた先輩は呟く。


「ひとまず海側に向かって……歩くか、自転車借りてサイクリングか」
「サイクリング!?」
「一人乗り平行走行か二人乗り自転車……愛、芽生えると思うか?」
「び、微妙……って、先輩感覚おかしくないですか!?」


 前者はともかく後者はギャグしか浮かばずツッコミを入れるが、先輩は真剣だ。


「なら……“雅”ならどうする?」
「え? そ、そうですね……」


 突然の指摘に戸惑うが、自分の作品の取材なのだから真面目に考えるのが普通だと気付かされる。何しろ見切り発車ではじめた作品だからすべてが曖昧。
 見下ろす目に瞼を閉じると、主人公達がデートしているところを思い浮かべる。



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