隣の彼は契約者

08*5



 すると、明星先生はくすくす笑う。


「文面のように可愛い方ね。今からでもふみちゃんから私に絵師変更しない?」
「はいっ!?」


 驚きっぱなしの私を横目に明星先生は大橋さんに視線を送る。でも返ってきたのは苦笑。


「みやび先生が許さないと思いますよ」
「大丈夫、泣かされるのは絢ちゃんだから」
「ひどいっ!」


 大橋さんの顔が真っ青になるが、明星先生の笑みは変わらない。
 たった数分でもおちゃめな人だとわかるが“ふみちゃん”の名に訊ねてしまった。


「えっと、明星先生は先輩……みやび先生と会ったことあるんですか?」
「ええ。彼とは同じ時期に専属になったし、いろいろね。最近だと夏の謝恩会……まさかビンゴ大会の景品を交換してくれるとは思わなかったわ」
「掃除機より七輪選ぶとか変わってますよね」


 笑いながら封筒の受け渡しをする二人の後ろで、私は胸を押さえる。激しい心臓はさっきまでの感動とは違う、ズキズキと痛みを伴う音を鳴らしていた。

 理由はわかる。自分以外にも“みやび ふみ”という“男性”を知っている人がいたからだ。

 前担当であった大橋さんが知っているのは当たり前。でも、それ以外の人との関わり合いなんて少ないだろうって心のどこかで思ってた。実際は明星先生のように出版社に赴くことだってあるだろうし、謝恩会だってある。彼を知っている人は、この出版社にはたくさんいる。

 それがわかって残念だと思う反面、嫉妬している自分がいた。



< 58 / 68 >

この作品をシェア

pagetop