隣の彼は契約者
09*類は友を呼ぶ


 面識のある美鶴ちゃんと相沢先輩は普通に挨拶を交わしている。
 反対に、首が痛くなるほど大きい人に私は戸惑っていた。

 先輩以上に背が高く、スポーツか何かしていたのか体つきも良く、肩幅も広い笹森さん。
 課長というが、総務課と営業課では階が違うし、社員も多いせいか覚えがない。何より無愛想の先輩とは違い、笹森さんは無表情。その威圧感に、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。

 すると笹森さんが懐を探る。
 それが拳銃でも取り出しそうなほど険しい顔つきだったせいか、咄嗟に両手で顔を隠した。


「おおおお許しくださあああぁぁーーーーい!」
「「は?」」


 突然の悲鳴に、美鶴ちゃんと先輩が素っ頓狂な声をあげる。涙目になりながら恐る恐る両手を解くと、差し出されたのは名刺。


「営業課……笹森……よろしく」
「……はぃ?」


 淡々とした声に間抜けな声が出た。
 でも、変わらない顔で一礼する笹森さんに呆気に取られながらも名刺を受け取る。数秒後、私も差し出した。


「総務課……大野です。よろしく……お願いします」


 頭を下げると、名刺を受け取った笹森さんは確認するように私と交互で見る。すると先輩に目を移し、名刺を指した。


「ああ……俺の部下だ。そそっかしくて悪いな」
「ちょ、またそそっかしいって……!」


 溜め息混じりの先輩を怒るよりも先に、先ほどの悲鳴を思い出す。
 顔を真っ青にしたまま見上げれば、笹森さんの顔半分に影ができ、いっそう怖く見える。



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