俺に溺れとけよ
「蒼井と今度泳いでみたいな!そんなに速いなら勝負してみたい!」


好奇心の目を蒼井くんに向ける陸は、妙に子供っぽく見えた。蒼井くんはニコッと笑うと「いいよ」と言った。









「今日はありがとね…休みなのに半日潰させちゃったね…」


夕方。陸達と別れバスを待っている時、私は蒼井くんに今日のお礼を言った。




「いやいや。俺も楽しかったし」

「そう…」


私なんかの都合に付き合ってもらっちゃったし、今度は私が蒼井くんの力になれることがあればいいけど。




「これからプール行くけど水野も行く?」

「え…」


バスが向こうから来るのが見えて来た時、蒼井くんが私をプールに誘ってくれた。もう18時近いけどあのスポーツクラブは23時までやっている。





「うん!一緒に行っていいの?」

「…だから誘ったんだよ」

「あ、そっか…」


ごめーん…と言って俯くと蒼井くんはクスクス笑った。




「一旦帰って水着持ってまた集合な。俺とお前の家近いからすぐだろ」

「そうだね」


もう帰るのかと思って少し寂しく感じてたのに、まだ蒼井くんと一緒にいられると思うと嬉しくなる。




「休みの日でもやっぱり泳ぎたくなるの?」


体がなまっちゃうからかな?あ、でも逆に考えたら休みだからこそ時間がいっぱいあるから泳ぎに行きたかったのかな?

だとしたらやっぱり…誘ってしまって申し訳なかったかも…




「いつも土日のどっちかに数時間行く程度なんだ。休みの日は友達と遊んだり予定が入ってることが多いから」

「そうなんだ…」


良かった…なら支障はないね。だけど引っかかったのは土日はよく友達と遊んだりってところ。

もしかして彼女がいて「予定」というのはそれも入ってたりするのかな?




「ただ何となく…今日はちょっとでも泳ぎたくなったんだ」


ボソッと言って夕方の空を見上げる蒼井くんの瞳が力強くキラキラ輝いている事に、その時の私は気づいていなかった。
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