アイより確かなナミダ


「連絡先、交換しようか」

 唐突にそう言われたのは十二月に入って間もなくのこと。
 そう言えば私はセンパイの連絡先を知らない。
 というか、言ってしまえばセンパイの本名も知らない。
 いつもセンパイ、って呼んでいたから……。

「じゃあ、ついに……ようやく今日、センパイの名前が分かるんですね!」
「あれ、言ってなかったっけ? 聞いてくれれば良かったのに」

 あれ? そうだったんだ……。
 わざとシークレットにしているんだと思っていた。
 私は嬉々としてスマートフォンをスカートのポケットから取り出し、連絡先を表示する。
 センパイはなんと携帯電話だった。
 今は希少なガラケーだ。

「はー、今どきだねエ。えっと、赤外線はあるの?」
「私のは付いてますよ」

 届いたプロフィールを開く。

『悠理』

「ゆ・う・り?」
「そ。女の子みたいでしょ」

 彼は肩をすくめて柄にもなく頬を染めていた。
 対して私は首を傾げる。

「そうかなあ。センパイに合ってると思うけど」
「そう?」
「うん、儚い感じが」
「ぶぶっ……。なに、それ」

 吹き出したかと思えば、途端にお腹を抱えて笑い出すセンパイ。
 確かに、そんな態度を取られたら違う気もするけど……。
 でも、やはりセンパイを言葉で表すなら『儚い』だった。
 だって、この高校で、この場所以外にセンパイを見かけたことまだないんだよ……。
 ここでしか会えない、夢幻かもしれないって、思っても無理ないじゃないですか。



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