大好きな君の嘘
笑わない女
番頭の許しがあり

君菊が天神として、島原に復帰した


君菊の復帰を待っていた客が集まり
舞踊の披露会


浪士組も参加していた


普段、酌をする君菊が今宵は
祝いで酒を注がれる側

随分な量を飲んでいる


浪士組の順番が来た頃は、顔が赤く

普段の上品な顔でなく

なんだか、幼い顔でへにゃと笑う

(そういえば…コイツがちゃんと笑うとこみたことねぇな……)

土方が君菊の顔を覗く


「大丈夫か? 飲みすぎだろ」

「そやかて、せっかくお祝いしてもろてますのに、断れません」

(すげっ しっかり喋ってる……)



結局 最後まで呑み通し


披露会がお開きになり、客が帰るのを
最後まで見送った






「あっ やべえ 忘れ物した!!」





一旦外に出たが、土方が慌てて中に戻る


番頭から、中庭で待つように言われ
中庭に行くと

儚げに月を見上げる君菊の姿があった



「よお」

土方が声を掛けると

振り返って、いつもの作り笑いをした


「忘れ物どすか?」

「ああ
あれだけ飲んで、どうもねぇのかよ?」

「熱いなぁとはおもてます」

「だから、涼んでんのか?」


君菊は、静かに視線を月に戻した


「帰りたいなぁって…」


土方が戸惑いながら聞く


「故郷か?」

「月」


(どうしよう……さみしいのか?)


「そない困ることやの?
いつものようにバカとか言わはると思った


怖い顔して……」



土方の前に立ち、手を伸ばし土方の眉間を撫でる


「なんだよ」

「皺をのばしてます」

「君菊」


土方が真面目に名を呼び、右手を君菊の頬へ添えた

君菊は、キリッとした顔で

「簡単に心を許したらあかん
うちは、土方はんの敵や」

「敵なら……
助けたりしねぇ」

「これがうちの手腕やって、言ったやろ?
重々 警戒しておくれやす」


土方の右手をのけ、チラリと冷たい視線を土方に向けたあと
部屋に戻るべく、遠ざかる




番頭から、忘れ物を受け取り


一人屯所への帰路につく









(敵なはずがねぇ……)



それだけは、確信している



土方だった












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