きみに想う 短編集
雫の家族
タヤル族狩りが始まった頃は

国内に数カ所のタヤルの村が存在し

タヤル族の村だけでなく

一般の中にタヤル族が一緒に暮らすことも珍しくなかった

雫も両親とともに

国内のありふれた小さな村に

一般市民と一緒に暮らしていた



「あら?華乃さん、可愛い坊や連れてるね」

「そうなの。息子を外で遊ばせようと思って」

「こんにちは、おばさん」

「あらー大きくなったわね。雫ちゃん」

雫の母、華乃はこの日

4歳の雫と生まれたばかりの雫の弟を連れ

近所を歩いていた

華乃は雫と手を繋ぎ

抱っこ紐をつけて弟を連れている

「息子くんは、華乃さんに似てるね」

近所のおばさんは

抱いて眠る弟の聖(せい)を見て微笑む

おばさんと別れて、3人は

大きな大木のある休憩スペースで

休む

「お母さん、聖寝てるの?」

「うん。ぐっすり寝てるわ」

眠る弟を覗き込み、ぽっぺをつつく雫

「起こしちゃダメよ」

優しく微笑む華乃の髪は深い茶色で

弟も母譲りの深い茶色だ

「ここにいたのか!今から調査が入る急いで帰るぞ!」

慌てた様子で駆け寄る男の髪は

赤い髪の雫にそっくりであり

雫を抱いて、妻を急かすように家へと誘導する
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