Be with you
私達が言うあの人。

それは私の好きな人の事。

私が名前も知らないあの人を好きになったのは約1ヶ月前のこと。




.




まだ今日ほど暑くない、ごく普通の日。

生徒会の仕事でたまたま朝早く登校して来た私は、ほぼ雑用と言える仕事を終えて教室へ戻る途中だった。




.




……朝から疲れちゃったな。

生徒会の仕事とか言われて集まっても殆ど先生達の雑用係だし。

早起きした時間がもったいない。

新しくしたばかりの上履きの音が、退屈そうにキュッキュと音を立てる中、ぶつぶつと文句を言いながら外を覗いた。

運動部の先輩方が汗を流しながら練習してる。

中学の頃は部活に励む毎日だったけれど、放課後にそのまま遊びに繰り出す高校生に憧れていたため、私もなみも部活は入らなかった。

レギュラー争い、喧嘩、引退試合。

テニス部時代の思い出に浸りながら止めていた足を進めた時、私の立つ廊下の反対側から足音が聞こえて来る。

なみがもう登校して来たのかと思い、私は顔を上げた。


「……………ッ」


そこに居たのは、なみではなかった。

すごく顔立ちの整った男の人。

私がじっと見つめてしまったからか、その男の人と目が合ってしまった。

自分心臓がうるさいくらいにドキッと音をたてる。

私はそれでも視線を外せない。

それは今までに感じたことのない感覚だった。

そこで私ははっとして目を伏せた。

ジッと相手を見過ぎた。

変な人だと思われたかもしれない。

いつの間にか、狭い廊下の端と端だった距離が近づいている。


男の人とすれ違う瞬間、私はもう一度視線を上げた。

するとやっぱり、また目が合ってしまい、それだけでも体温がぐっと上がった。

それなのにその人は私に優しい笑顔を向けてくれた。

やばい……絶対顔赤くなっちゃってる。

急に俯いた私を見て、その人は小さく、ふんわり声に出した。


んふふ

って。

男の人なのに、可愛く、そう笑った。

途端に凄く恥ずかしくて小走りで逃げる。

角を曲ってから一旦呼吸を整えようとするけど、相変わらず心臓はうるさく音を立てるしほっぺに手を当てるといつもよりもとても熱い。


「……何、これ」


ドキドキが止まらない。

すれ違う瞬間にふわっと香ったあの人の匂い。

優しく微笑んだ顔。

吸い込まれそうな瞳。

そして胸が暖かくなるようなこの気持ち。

もう絶対に忘れられない。


「これが……恋なの?」


私は、ドキドキが収まらない胸を抑えてその場でしゃがみこんだ。
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