そこには、君が
「あ、はい…すいませんでした」
私は頭を下げると、
その人の脇をすりぬけて、
凛の元に戻った。
フロアに出ると、
さっきとは打って変わり、
嬉しそうに話す凛の姿が。
「あ、おかえり」
「凛、戻るタイミング悪かった?」
ごめんなさい、と店員さんに謝る。
お連れさん?と甘い声で尋ねられ、
こくりと頷いてみる。
なるほど。
確かに、この人、凛のタイプだわ。
「柴崎 春太さん。大学3年生だって」
ウキウキしながら話す凛に、
乗っかるように挨拶してくれる。
「初めまして。ここ来たこと、ないのかな?」
「あ、初めてです。…はい」
普段、男の人と話すことない私は、
少し緊張しながら言葉を返す。
そんな私をよそに、
2人は盛り上がる。
お腹空いたな。
そう考えていると。
「お客様」
やってきた、
さっきぶつかった人。
「は、はい…」
「財布、落としてません?」
片割れさんに差し出された財布は。
「あ…」
紛れもなく、私の物で。
一応確認してみるも、
当然鞄の中に財布はない。
「私のです…」
「気を付けてください」
頭を下げると、
重苦しい表情でカウンター内に
戻って行った。