そこには、君が





「まずはどこ行くの?」





マンションのエレベーターに乗りながら、


行き先を尋ねる。







「海、の近く」





「あ!前に言ってた所でしょ」





「そう」






この前、テレビで特集していた、


海の近くのカフェ公園。


大きな公園の中にカフェもあり、


遠くには海が見えるという、


デートスポットとして有名で、


私が行ってみたいと言ったことがある。


覚えてたんだ。






「だからお弁当ね」





「腹減った」





「我慢して」






大和の口癖をちゃんと今日も聞き、


私はクスッと笑った。


お腹が空いたと言うのは、


毎度のことだもん。







「あ、来たんじゃない?」





公園は、バスに乗り込み、15分ほどの所にある。


あまり乗り慣れていないバスには、


たくさんの人が乗っていた。


乗り込むと丁度降りた人の座席が空いており、


1人分しか無い。






「大和、座る?」





いつもなら聞く前に座っているが。






「明香座れよ」






今日は珍しくも譲ってくれた。


だけど、それは気が引けたので。






「あ、座ってください」





私は後ろに立っていた女性に譲り、


一緒に吊り革に捕まっていることにした。


何やってんだ、みたいな顔で


私を見ている大和に。






「一緒に立ってようと思って」






そう伝えた。


勝手にしろ、と言いたげな大和は、


何も言わずにお弁当が入った鞄を


そっと持ってくれた。






「わー!すごい!海、ちゃんと見えるね!」





公園に到着すると、


私は一目散に海が見える所へ走った。


よく聞けば、波の音が聞こえてくるようで、


ピクニックには贅沢な場所である。






「ここ座れるよ!」






きっとわざと海に向いて作られたであろう


ベンチに、私と大和は腰を下ろす。






「リクエスト通りに作ったよ。ほら」





私は昨日聞いていた大和の食べたいものを、


そのまま再現。


唐揚げ、ソーセージ、肉団子、卵焼き。


おにぎりは炊き込みご飯で、


温かいスープまで添えた。


大和は手を拭き、静かに手を合わせると、


スープから口をつけた。






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