そこには、君が





書きながら涙が溢れるのは必須で、


もう止めることなど出来なかった。


手紙を書き終え、封筒に入れると、


大和が必ず目にするところへ置いた。


これで出発の準備は出来た。






「行ってきます」






たった数ヶ月しか住んでいないこの家は、


とんでもないくらい暖かくて、


居心地の良い場所だった。







「チケットもあるし、…ん、大丈夫」






私は空港行きのバスに乗り込み、


手荷物の確認をした。


空港までは1時間半。


その間、寝ていようと思っていたのに、


涙が溢れて仕方なかった。






「ありがとうございました」






バスの運転手さんにお礼を言い、


1時半かけて乗っていたバスを降りる。


空港に到着すると、


入り口がたくさんあって、


どこに乗ったらいいか分からない。






「あの、すみません…」






国際線の場所が分からず、


歩いている人に尋ねてようやく


歩き出すことが出来た。


荷物を預けて、出発の時間まで待機する。


本当に日本を離れるんだな。


そう思うと、なんだか急に名残惜しくなって、


日本食を求めてコンビニに立ち寄った。







「…あ、これ」






私はある商品を手に取る。


それはいつも食べているお菓子で、


大和が大好きなものだ。







「新発売だって…さ、」





新しい商品には目がない私は、


どんなお店でも新商品のシールを見ると、


大和にうるさいほど伝えていた。


いらないと言われるのは分かっていても、


この気持ちを共有したくなるから。


買い物を済ませ、搭乗まであと7分。


もうすぐかと携帯で時間を確認していた時。


時計のウィジェットが急に変わり、


着信を示す画面となった。







「…嘘、なんで、」





そこには私が1番声が聞きたい人の


名前が表示される。







「もし、もし…」





『おー、間に合った。生きてる?』





「は、何。生きてますけど」






もう、涙腺は崩壊した。


大和の茶化す冗談も、


いつものやり取りも、


全てが愛しく思う。






『いやお前が泣いてんじゃねえかって思って』





「泣いてませんけど…、」






バレてはいけない。


そう思えば思うほど、


涙が溢れてくる。





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