2番目じゃなくて、2度目の恋


佑梨がいつも何時に起きるのかは知らないけど、彼女のことだから抜かりなくアラームはかけているだろう。
今日は自分の仕事が早番だったから、5時半に起きた。
7時には職場に着いていないといけない。


起こさないようにそっと出ていこう。


寝ていた布団を畳んで、部屋を見回す。
こう言っちゃ悪いけど、女性にしては殺風景な部屋だなぁ、と。
一人暮らしを始めて日が浅いのか?
なんにせよ、俺も彼女もお互いについて知らないことが多すぎる。


その時、消え入りそうなほどの小さな声が聞こえた。


「敦史」


驚いて振り返ったけれど。
身動きひとつせずに規則正しい呼吸をしながら眠る佑梨がそこにいた。
夢でも見て、寝言をつぶやいたらしい。


彼女に一瞥し、忍び足で部屋を出た。
鍵を開けたまま出ていくことになってしまうけど、もう朝だし大丈夫だろう。


外は雨が降っていた。


路駐していた車に乗り込んで、エンジンをかける。
ワイパーを作動させてフロントガラスについた雨粒を払って、さぁ車を動かそうとした時。


そこで昨夜の佑梨が大粒の涙を流している姿を思い出した。


昨年も呼んでいた、「敦史」という名前。
それが彼女が想いを寄せる人の名前なのだということはすぐに分かった。


行き場のない想いが、佑梨を捉えて離さない。
今夜もまた、彼女は泣くのだろうか……。




そんなことを考えながら、車を発進させた。












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