今すぐぎゅっと、だきしめて。


――キキキィ



自転車のブレーキが甲高い悲鳴を上げた。



……ここだ、間違いない。


―――…ゴクリ


あたしは、無意識に生唾を飲み込んでいた。



「……ね、ヒロ…見覚えある?」



自転車をとめながら、あたしはヒロを見上げた。



「うーん……」



ヒロはそれだけ言うと、眉間にシワをよせたまま玄関の中に入って行こうとした。



「ちょ…ちょっと! 勝手にはまずいよっ」

「なんで?」



思わず呼び止めたあたしを、あきらかに不服そうにヒロは首をかしげた。


なんでって……


「だって、俺んちかもしんないだろ? 確認くらいしてもいいじゃん」

「そっそれは……」


そりゃあそうだけど、もし違ったとして!

それは不法侵入になるんじゃ?



ブツブツと言うあたしを見てヒロは口角をキュッと上げると面白そうに続けた。



「それに…俺はユーレイだし? 入ったってわかんないでしょ」

「あ…」



開いた口が塞がらない。

確かにそれはあるんだけど…
今の微笑みに少しだけ悪戯心が垣間見えたのはあたしだけですか?




そして、ヒロは涼しい顔をして玄関のガラス戸をすり抜けて行ってしまった。



ど…どうしようっ

あたし、ここで待ってるべきなのかな?


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