【短編】もし、それが嘘だとしても
***

忘年会が始まって数時間。

ガヤガヤした広間を抜け、静樹さんの後を追う。


「和葉くん、何してるの?」

振り返ると同時に、今時珍しい黒髪が空を舞った。


「言えば良いでしょう。僕なんて嫌いだと」

「どうして?」

薄桃の唇がわずかに震えている。


「嫌いじゃないって言ったでしょ?これ以上何かあるの?」

笑顔だけは、崩さない。


「兄さんが亡くなったことに、貴女が責任を感じる必要はない」

「それを言うためだけに、ここに入社したなら今すぐ辞めて」

和風の廊下には、誰もいない。

貸し切りなのだから当たり前ではあるだろうが。


「弟の和葉くんを好きになるなんて、できないよ。双葉さんは一人しかいない」

「貴女は、兄さんを愛していなかった」

「双葉さんは私を愛してくれたよ」


政略結婚でも、十分すぎるほどの愛を。


「…静樹、俺は」

「やめて、和葉くん」


静樹の目が濡れていた。


「双葉が亡くなったから、もう俺のことは嫌いなのか?」


ごめん。



こんなこと言ってごめん。



「そうだね───」



静樹は、苦しそうに顔を上げる。







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