第二秘書は恋に盲目
待合室で、懸命に話しかける八田と、それに短い言葉で返事をするあやめちゃん。
1日中ずっとこんな感じだ。誰に話しかけられても、大した会話はしなくて不機嫌なまま。

八田は気を使って会話の内容を選んでいるようだが、俺はそんなこと必要ないと判断した。

「さっき笠原さんに連絡した。おそらく、もう少ししたら迎えに来るはずだ」

すると、ずっと下を向いて座っていたあやめちゃんが、はっと顔を上げ立ち上がった。

「笠原に言ったの!?
言わないでって言ったじゃん!
私帰らないから!」

院内に響き渡る声で、俺の白衣を掴みながら必死になっている。
この子がこんなことするなんて、よっぽど帰りたくない事情でもあるのかもしれないが、ここはそういう子を預かる施設ではない。
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