光のワタシと影の私

Envy~嫉妬~

 楽屋で各々普段着に着替えるなか私は思い切ってREIに話し掛けてみた。
 普段ならば「お疲れ~」とREIのほうから気軽に話し掛けてくれるというのに今日に限ってそれが無い。やはりイベントが気に食わなかったのだろうか?
 もし、私が原因でREIの機嫌を損ねてしまっているのならばすぐにでも謝りたいし、次からは気をつけるように努力をすることも出来るもののREIは衣装に合わせたメイクを落とすことに集中しており、「話しかけないでオーラ」のようなものが漂っているように見えた。
 「れ、REI…あの…今日のイベント…」
 「…あー、お疲れ様。…うん、良かったんじゃない?ファンも喜んでくれたみたいだったし。良かったね、麗華」
 メイクを落としているのだから鏡越しに自分の顔を見ていても不思議なことじゃないけれど、どこか言葉の節々に棘のようなものがあるように感じた。
 メイクを落とすことにそんなに集中する必要があるのか?
 それとも、やっぱり私に原因があるのか…。
 どうせなら、今ここではっきりさせてもらいたいと思った私は思い切ってREIに話し掛けてみることにした。私は着替えどころかメイクもそのままにしてREIの傍らに立った。
 「REI…私に不満があったんだよね?!だからそんな…機嫌悪いんでしょう?!」
 「!違うよ…。麗華が何か悪いことをしたわけじゃないから…ちょっと…自分のことで…」
 「だったら私が相談になるから!お願い、話せることなら話して!」
 きっとここで引いてしまったらもう二度と元の二人の関係に戻れないような気がしてしまったから私は尚も質問を止めることは出来なかった。
 私だって無理につらいことを聞き出したいわけではない。
 私たちはユニットを組んだ絆というものがあるのだからパートナーが苦しんでいるのであれば一緒になって苦しみたいし、楽しめるときには一緒に楽しみたいを考えているのだ。
 「……麗華がステージに上がったときもそうだったけど…麗華の歌声を聴いたファンのみんなが…麗華の虜になっていた。間違いないよ。…今までそこにはワタシが立っていた場所だったっていうのに…可笑しいよね、麗華に嫉妬しちゃったんだ」
 「嫉妬…?」
 REIの言うことが信じられなかったというのが最初の感想。
 そして、時間が経つとともに首を左右に動かすことでREIの言葉を否定していった。
 「今までの私は一人じゃ虐められっ子。地味で友人らしい友人もいなかった。だけどREIに出会えて、素敵な友人に出会えたと思えた。芸能界が厳しいことも理解はしていたけれどREIの傍にいられるなら頑張ろう!って思えた。だから今日のイベントだって私一人だけじゃ成功させることも不可能だったんだよ?私たちは二人揃ってこそのグループなんだから!」
 息を吸うことも忘れてしまうぐらいに一気に吐き出す勢いでREIに私の想いを告げていくと彼女は目を丸くしながら私の顔を見上げていた。
 REIはメイクをするための椅子に座っていたために私の位置からではよくよくその整った顔を眺め下ろすことが出来ている。
 すると何を思ったのかREIが笑い始めたのだ。
 別に何も可笑しいことなんて言っていないのに…。
 「やっぱり、麗華ってイイよね!そういう性格、ワタシには持っていないものだからすっごく羨ましい!」
 …一応、REIの悩んでいた問題というものは解決したことで良いのだろうか?疑問を持ちながらじーっとREIの顔を見下ろしていくと「あんまり見ないで、すっぴんなんだから」と両手で顔を隠されてしまった。
 良かった。
 この調子なら、またこれからも今まで以上に気づかれた絆を持った関係で過ごしていくことができるだろう。
 「でもさー、嫉妬したってのは本当だよー?麗華の歌声、真似て何度も歌って練習してみたことがあるけど全然ダメなの。やっぱりそれは麗華にしか持っていない素質なんだろうねぇ~?」
 「わ、私は…場慣れしているっていうか…ファンに丁寧なところが羨ましいよ」
 「へへ、ありがと」
 お互いに言いたいことを言えたおかげですっきりしたところもあるのか着替えもメイク落としもあっという間に終わらせることができ、これから空いた時間は近くのカフェにでも寄っていかない?とREIのほうから誘われたので私は断る理由など無かったから素直に頷き返した。
 二人ともさっきのイベントで熱を上げていたときとはまるで雰囲気が異なり、普通の女子高校として友人と並んで歩いているように見えた。ただ、どうしてもREIは目立つからサングラスは欠かせなかったけれど、ね。
 「ここのケーキが美味しいんだよ~!あ、店長こんにちはー!」
 「お、いらっしゃい!今日はお友達も一緒かい?」
 「はぁい!ワタシの大事なパートナーちゃんですよ~!」
 自分で相棒と告げるのはあまり恥ずかしくはなかったけれど面と向かって他人に大事なパートナーであるということを告げられると妙にくすぐったくて落ち着きなくそわそわと店内を見渡していった。
 店内は落ち着いたモダン風。
 木材のテーブルや椅子が自然を思わせるようで今この時間帯は客足が少ないこともあってかとても落ち着く店に感じた。
 「じゃあ、ワタシはカフェオレとチーズケーキね!麗華は?」
 「あ、じゃあ…どうしようか…コーヒーと、チョコレートケーキでお願いします!」
 「はい、了解。少々お待ちください、人気のアイドルグループさんたち」
 店長もからかい上手なのか、私たちのおこなっている活動を知っているのか笑いながら飲み物とケーキの用意をするために調理場へともぐっていった。
 私たちは端のテーブル席に落ち着くと注文したメニューが届くまで届けられた水を少量口にしながら今になってドッと押し寄せてきた疲労に椅子の背もたれに寄り掛かって溜め息を吐きだした。
 「ホント、REIは凄い…。体力もありそうだよね?実はジムとかに通ってたりする?」
 「へ?ジム?まっさか~。そりゃあ早朝にランニングすることはあるけれど、毎日はしてないし…食生活に気を配ってるってこともないから…普通、かな?」
 「普通?!それで?!…うーん…今日のイベントで握手会に行くまでかなり疲れちゃったから体力付けたほうが良いかなーって思ってるんだよね…」
 REIとのおしゃべりを楽しんでいるうちに運ばれてきたメニューに口を付けながらう~ん、と小さく唸り声を洩らした。
 「だったら、部屋の中でも出来るストレッチとかは?ヨガもあるし、ちょっとした運動なら室内でも出来ると思うよ?」
 「そっか~。うんうん、やってみるよ!」
 疲れたときには甘いものが一番!
 それが私たちには当てはまっていたらしくあっという間に各々のケーキを平らげてしまうとゆっくりと飲み物を口にしていった。
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