愛の歌、あるいは僕だけの星

 残りのデータだけノートパソコンに打ち込み、メガネを外して細かい数字を見過ぎて重たい目をごしごしとこする。さて、帰ろうか。そう思った時だった。生徒会室の外で、ガタンという大きな音がした。

「……誰かいる?」

 生徒会室は、本校舎から離れているから、生徒会の人間以外訪れるものはほとんどいない。問いかけに答える様子もなく、思わず眉をひそめる。

「もしかして、夏?」

 イスから立ち上がり、ゆっくりと扉を開けた。うち震えるように身体を固まらせて、涙に滲む瞳を持ち上げるのは、三原亜矢子だった。頬は真っ赤に腫れ上がり、制服は泥だらけ。ボタンが引きちぎられたのか、はだけた胸元をぎゅっと握りしめている。

「ふぅっ……」

 大粒の涙をぽたぽたと落とし始めた彼女に、銀也は息を呑んだ。さすがに、転んだせいでこうなったわけではないことくらい気づく。
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