オークション
「行くよ」


マスクをつけた白衣の男性がそう言った瞬間、あたしの体にメスが入れられるのがわかった。


腰にうった注射は麻酔だったのだろう、痛みはない。


しかし、意識はハッキリしているし体の中に何かが差し込まれているような感覚はあった。


刃物が自分の足を切り、骨を切断していくのがわかる。


あたしは恐怖で声を上げる事さえできずにいた。


このまま殺されてしまうんじゃないか。


そんな不安ばかりが押し寄せてきて、オリンピック選手の足なんて頭の中からスッポリと抜け落ちてしまう。


作業が進むにつれて男性の白衣は赤く染まり、そこでようやく輸血が開始された。


あたしの体内に得体のしれない血液が流れ込んでくる。


その時だった。


「ほら、取れた」


男性がそう言い、ニッコリとほほ笑んであたしの右足を天井へ向けて掲げたのだ。


会場内から悲鳴が聞こえて来る。


あたしは目を見開いてその光景を見ていた。


自分の足が切断され、その断面から血が流れ出す様子を見ている。


白い骨が血に染まって赤くなり、所々脂肪の白さを残した肉が目に焼き付く。


「い……や……」


自分のものとは思えないくらい情けない声が漏れた。
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