オークション
1人になり、あたしは部屋の中を見回した。


昨日までと何も変わらない風景。


けれど何かが違うと感じるのは、自分の中に今までになかった走りたいという感情が生まれているからだった。


体を起こすとまだ少しふらついたけれど、昨日の夜ほどではなかった。


カバンを開け、オークションのスタッフから貰った書類を手にしてベッドへ戻る。


昨日の短時間ではすべて目を通す事はできなかったのだ。


あたしは書類の一枚に目を止めた。


それは術後の副作用などについてが記載された用紙だった。


本来こういうものは手術前に受け取って確認するものだ。


法律が存在しない海上ではその手順も完全に無視されているみたいだ。


術後についての説明を読んでいると、高熱が出る可能性があると言う事も書かれてあった。


五良野正子さんのように体に会わないパーツだった場合、腐敗して落ちてしまう可能性があると言うことも。


あたしは寝転んだまま自分の足へ視線をやった。


今のところしっかりとくっついているように見える。


これがもしあたしの体に会わなければ、腐敗して落ちてしまう……。


そう考えると背筋が寒くなった。
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