オークション
「ふぅん」


藤吉さんは特に気にする様子もなく、個室へと入って行った。


ホッと胸をなで下ろし、トイレから出ようとする。


が、途中で足を止めた。


「海外へ行くって、本当?」


個室の中の藤吉さんへ声をかける。


「当たり前でしょ」


「絵のため?」


「他になにがあるの?」


藤吉さんはそう言い、おかしそうに笑った。


「絵が……本当に好きなんだね」


「そうだよ。あたしは絵に人生をかけてる」


そう言い、水の流れる音が聞こえてきて藤吉さんが個室から出て来た。


その表情はにこやかで、未来は明るいものだと確信しているようにも見えた。


「人生をかけているから、1億だってかけれた」


手を洗いながら藤吉さんはそう言った。


ドクンッと心臓が大きく跳ねるのを感じた。


藤吉さんの気持ちは本物だ。


生半可な気持ちでオークションに参加したわけではないと、ようやく理解できた。
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