オークション
ずば抜けて足が速いと言う噂は、あっという間にクラス中に知れ渡っていた。


体育館の中で授業を受けていた男子たちにも情報は行きわたり、6時限目の授業が始まるころにはみんながあたしに注目していた。


「すごいね。あんな才能があったんだね」


「陸上部には入らないの? 絶対にエースになれるよ!」


そんな声をかけられるたびに、あたしは照れくささから曖昧にほほ笑み返していた。


そんな中、藤吉さんがこちらを見ている事に気が付いていた。


何かを言ってくるわけでもなく、目が合えばほほ笑んでくるだけの藤吉さん。


居心地の悪さを感じながら最後の授業を受け、帰る準備をしていると不意に後ろから声をかけられた。


「これ、さっき描いたの」


その言葉に振り返ると、藤吉さんがスケッチブックを持って立っていた。


見ると、そこには体育の授業で走っている時のあたしの絵が描かれていた。


前を向き、笑顔を浮かべて誰よりも早く走っているあたしの姿が、まるで写真のように切り取られている。


「よかったらもらってくれない?」


そう言い、藤吉さんはそのページを切ってあたしに差し出してきた。
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