オークション
『あんな、見たことない子に負けるなんて!!』


悔しそうにそう言っていた事も。


思い出すと気分がよかった。


どんなに泣いても、悔しがっても、大会の結果は覆らない。


2人が死ぬ思いで努力してきたことを、あたしは簡単に追い抜いたのだ。


そのため、優越感と同時に物足りなさを感じてもいた。


世界にあたしの敵はいない。


どんな大会に出てもあたしが1位を取るだろう。


ライバルがいないというのは、張り合いがないと言う事だった。


あたしはのんびりと歩いて帰ると、自室へと向かった。


外はまだ明るくて「もう帰ってきたの?」というお母さんの声がリビングから聞こえてきていた。


走る格好から部屋着へと着替えて、ベッドに横になる。


まだまだ走り足りない感覚があったため、あたしはそのままルームシューズを履いた。


部屋の中で走る方が、格好に気を使わなくていいから好きだった。


マンマルマラソンで1位を取ってから、部屋の中で走り回ることを両親は承諾してくれていた。


今日は家の階段を50往復したら終わろう。


そう思い、部屋を出たのだった。
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