オークション
謝って数字を打ち込むことが怖くて、ボードに触れる事さえできない。


冷や汗が額から頬へと流れていく。


その時だった。


「それでは、締め切らせていただきます!」


モンピーのそんな声が響いて、あたしは体の力を一気に抜いた。


知らない間に呼吸を止めていたようで、大きく息を吸い込んだ。


「戸田啓太さんの脳味噌は5億5千万円で落札されました!! おめでとうございます、落札された方、どうぞステージへ!!」


モンピーが前回よりも興奮気味にそう言った。


会場内は歓声と拍手が沸き起こる。


一体どんな人が5億5千万円で脳味噌を競り落としたんだろう。


好奇心からあたしは身を乗り出すようにしてモニターを見つめていた。


すると、画面の中に母親らしく女性と、女性に手を引かれて歩いていく少年の姿が映し出された。


その少年が知的障害者であることは、見ただけですぐに理解できた。


歩き方がぎこちなく、大勢の視線にさらされて怯えているのがわかった。


モンピーがステージの階段まで迎えに行くと、少年は母親の後ろに身を隠してしまった。


嫌がっているのがあたしにだってわかる。


しかし、母親は強引に少年の手を引いてステージに上がってきた。

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