Butterfly
金曜日。空きコマである午後のひととき。

校舎から離れた林の木陰で、私は咲良の弾くバイオリンに耳を傾けていた。

咲良の立つ場所にだけ、わずかに木漏れ日が差して、まるでスポットライトがあたっているよう。

穏やかに華やかに、特別な時間が流れる。

演奏が終了し、咲良がバイオリンを肩から下ろすと、私は嬉しさどお礼の気持ちで手をたたいた。

「咲良が弾くこの曲、やっぱり好き」

ドキュメンタリー番組のテーマ曲。

私のリクエストで、咲良が弾いてくれたのだ。

クラシックに詳しくない私でも、なじみ深いし、元々すごく好きな曲。

そしてこれを弾く彼女の姿は、強さを感じる美しさがあって、私はいつも見惚れてしまう。

「ありがと。千穂ちゃん喜んでくれるから、私も弾くの嬉しくて」

「うん。ほんとにすごく好きなんだ」

「ふふっ。嬉しい」

咲良は笑って、私の言葉を素直に受け取る。


(よかった・・・元気になって)


あの事件以来、ふわふわとした彼女の良さはそのままに、少し強さが備わった気がする。

いろいろなことがあったけど、それを乗り越えた今の咲良は、確実に前よりオトナになった。

「そうだ。7月にまたコンサートがあるの。よかったらまた岡本さんと聞きに来て」

「そうなんだ。うん!蒼佑さんも喜ぶと思う。絶対に行くね」

「うん」
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